ジャケットの後ろの切れ込み「ベント」について
スーツについて様々なことをお届けしてきましたが、今回はジャケットの後ろにある、切れ込み「ベント」についてお届けしていきたいと思います。
「ベント」というのは前文でも少し触れましたが、ジャケットの後ろにある、切れ込みのことです。皆様がお持ちのスーツによく見られるのは、両脇に切れ込みが入った「サイドベンツ」ではないでしょうか。ベンツ(単数形ではベント)の生い立ちは、ルネサンス当時のドイツの兵隊に採用されたスラッシュ飾りが源流だと言われております。
それでは、そのベンツ自体にはどんな意味があるの一緒にみていきましょう。
遡ること17世紀。イギリスのチャールズ2世によって、男性の貴族服はそれまでのダブレットという着丈の短いブルゾンのような上着ではなく、コートのように膝丈まである長い「ジュスト・コール」を着るように定められました。
しかし上着が膝丈まであると、宮廷にいる時はいいとしても、馬上では実に邪魔で不便でした。
裾が馬の鞍に当たったり、ヒラヒラし過ぎて邪魔になったりと、実用性だけではなく見た目も美しくありません。そこで「ジュスト・コール」に様々な工夫が施されるようになりました。
工夫①
ウエストの後ろ部分に取り付けたバックボタンです。
そのボタンで前裾をたくし上げて留めることで、長い丈のジュスト・コールの騎馬スタイルが美しくなるように工夫されています。
工夫②
ウエストあたりまで施されたセンターベントに見られます。
センターベントを施すことで、鞍にまたがった騎馬姿勢をとっても、裾が左右にきれいに収まるからです。
当社ベテランの職人曰く、今でもセンターベントのことを、職人たちは「馬乗り」と言うそうです。まさに上記の名残からきているのですね。
このようなルーツがあるため、センターベントの服には”スポーティー”で”活動的”な印象があります。
それからジュスト・コールを着た時に腰に付けたサーベルがきれいに収まるように施されたのが、サイドベンツです。
サイドベンツを施すことで、サーベルの鞘がきれいにベンツからのぞくように設定されているのです。つまり軍服としてのディテールです。
だから現代では、サイドベンツがあるスーツはその由来から”権威”や”象徴”などのパワー的な印象があります。
＜センターベント＞
＜サイドベンツ＞
スーツのVゾーンに見られる、シャツとネクタイのカラーの組み合わせで相手に与える印象が変わる(いわゆるトランプ前大統領の赤ネクタイに象徴されるカラーコーディネイト)のと同じように、その仕様をすることによって相手に与える印象を考えながら最適なものを着用すると、よりファッションは面白くなるのではないでしょうか。
またもう一つのベントの仕様として「ノーベント」というものもあります。「ノーベント」とはベントが無い(ノー)もののことです。
これまでお伝えした「センターベント」「サイドベンツ」が「動きやすさ」という機能性を高めるためのディテールであったのに対して「ノーベント」は機能性の求められない社交パーティーなど公式の場で着用するスーツに採用される、由緒正しい最もクラシックなデザインです。ですので、タキシードやディレクタースーツは必ずこの仕様が基本となります。
スーツのたった一つの仕様ではございますが、「たかがベント、されどベント」です。後ろ姿までかっこいいスーツを着ることで、背筋も伸び、シルエットすらさらに美しく見えます。
Lorenzoのオーダースーツやオーダージャージスーツではもちろん、お好きなタイプのベントの選択が可能です。
この歴史を知ることによって、このジャケットは休日のアクティブ用だから「センターベント」にしよう。これは大事なプレゼン用の勝負服だから「サイドベンツ」にしよう。など、着用シーンで選ばれるとさらに良いかもしれません。また、どのベントにしようか悩んでいるといった方がいらっしゃいましたら、まずはLorenzoにご相談くださいませ。
静岡県三島市（沼津・富士・御殿場）のオーダースーツ専門店「Lorenzo」は、
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